去年Amazon Primeで先行配信された益田ミリ原作のドラマ「僕の姉ちゃん」。
そういえばいつからテレ東で放送されるんだろうと思って調べると、ちょうど7月27日から放送開始されたらしい。
放送日時はというと、毎週水曜日の深夜1時とのこと。
私はこの放送日時になんだかとても感動してしまった。
週の真ん中の、深夜1時。
「僕の姉ちゃん」は、まさにそういう時間がぴったりのドラマである。
ドラマ「僕の姉ちゃん」のいいところ5つ(+番外編)
姉と弟の何も起きない日常をのぞき見できる
これは、僕と、僕の姉による
つかの間の、ふたり暮らしの記録です。
ーー益田ミリ『僕の姉ちゃん』より
原作の1ページ目をひらくと目に入る文章だ。
ドラマの冒頭で僕(杉野遥亮)が言うセリフでもある。
この言葉どおり、僕と姉ちゃん(黒木華)が同じ屋根の下で交わす会話が、このドラマの中心となっている。
僕は、まじめで不器用、恋にも奥手な新入社員。
対して姉ちゃんは、恋愛対象ではない男からの電話に「今ほうれん草ゆがいてました♡」と平然と噓をつく、人生の先輩である。
そんな2人が、仕事をし、家に帰り、ごはんを食べ、適当に会話をする。
それ以外に大きな事件は起きない。
姉と弟の、つかず離れずなふたり暮らしをのぞき見させてもらうようなドラマだ。
軽やかで説教くさくない姉ちゃんの言葉たちに救われる
「姉ちゃんって人生でやり直したいこととかなさそう」
「そんなことない。いつも30分前をやり直せればいいわな」
「はい?」
「それで大体のことはうまくいく」
――ドラマ「僕の姉ちゃん」第1話より
このドラマの見どころの一つは、姉ちゃんの名言っぽい言葉にある。
「本当かよ」と言いたくなるけれど、なんか本当っぽい言葉。
すごく大切な教訓になりそうな、実はそうでもなさそうな言葉。
そんな"名言っぽい"姉ちゃんの言葉は、説教くさくなく私たちの心に入り込んでいく。
で、一晩眠ったら忘れている。それくらいの、ちょうどいい軽さがあるのだ。
「僕の姉ちゃん」に社会の生き抜き方を学べる
姉ちゃんは自由奔放に見えるが、きちんと社会に適合している器用な女である。
興味のない上司の話にも、愛想笑いで対応する。
で、「疲れた~!」と帰ってきて、わーっと愚痴を言って、けろっと笑っている。
あー、これでいいんだよな。社会の生き抜き方なんて。
と、この姉ちゃんを見ているとそう思えるからふしぎである。
「自分を大切にしよう」とか「やりたくないことはやめよう」とか、最近ちまたであふれてるこういうメッセージに、逆に疲れることってないだろうか。
この姉ちゃんなら絶対そんなこと言わないだろうな、っていう安心感があるんだよね。
たまに自分のためにケーキ買ってみたり、いけ好かない女のまねをしてみたり、弟に軽口たたいてみたり。
きれいごとじゃなく、やりたいようにやり過ごせばいいのだ、毎日なんて。
独身アラサー女性の夢みたいな暮らしを追体験できる
「僕の姉ちゃん」は、独身アラサー女性の夢が詰まったドラマでもある。
- 家の最寄りは江ノ電、湘南の鵠沼駅。
- おしゃれ家電メーカー勤務、イカしたインテリアに囲まれたオフィスで働く。
- 理解の追いつかないおしゃれセットアップで通勤。
- 絶妙にセンスがいい、縁側のある家。
- だからといって"丁寧な暮らし"ではない。
- 部屋着はスウェット、料理はしない、缶ビールで晩酌。
あかん。理想の暮らしすぎる。
黒木華と杉野遥亮の好演で世界観に浸れる
こんなイイ感じの暮らしで自由に生きてる女性を、嫌味なく演じられる人がいるのか?
それがいるんだ。名前を黒木華という。
私は益田ミリさんのファンで、「僕の姉ちゃん」もドラマ化が決まる前から愛読していた。
姉ちゃん役が黒木華だと聞いて、それじゃあただのハイセンス嫌味女になってしまうんじゃ…?!と一瞬でも思ってしまったことを本当に謝りたい。
仕事にも恋愛にもこなれているけどどこか等身大、弟を多少見下しているけれど悪口にならない、格言めいたことを言うけど決して勘違い女ではない。
その絶妙な塩梅を、黒木華が見事に演じている。
そして弟の僕を演じるのは杉野遥亮。
しっかりお芝居を見たのはこのドラマが初めてだったんだけど、びっくりした。
杉野遥亮のイケメンさが完全に消えている。
まじめでぱっとしない、どこにでもいそうなザ・普通の男になりきっている!
こういう力関係と距離感の姉と弟、いるいる……!って思わせてくれる2人のお芝居にも、ぜひ注目してみてほしい。
番外編:姉と弟という関係
とはいえ本当にこんな姉と弟いるのかよ?と思う人に答えを授けたい。
いる。この姉と弟は、まさしく私とマイブラザーそのものである。
夜ごはんはそれぞれ自分の分だけ買ってくる。
決して自炊をして弟(姉)の分までつくってあげようなんてことにはならないし、ケーキだって買うのは自分の分だけだ。
けれど同じ屋根の下にいれば、同じ血を分けた者同士、話をする。
別にまじめな話なんかじゃない。なんとなく話したいことを話すだけ。
こういうつかず離れずな関係性はもしかしたら、姉弟の特有な感じがあるのかもしれない。
姉妹ほどウェットじゃなく、兄弟ほどドライじゃなく、兄妹ほどきょうだいっぽくない(一部偏見を含みます)。
姉弟というと、ドラマでは肝っ玉姉ちゃんみたいに描かれることが多い気がする。
でも私にとっては、「僕の姉ちゃん」のほうがリアルであり現実だ。
たがいのことにそこまで興味はないが、まったく興味がないわけではない。
この姉と弟の距離感を私は気に入っているし、それを描いたドラマができたことが嬉しい。
おわりに
疲れのたまってきた週の真ん中、眠りにつく前の深夜1時。
軽やかな姉ちゃんの"ちょうどいい"言葉は、そんな時間にぴったりだ。
「行ってきます」と「ただいま」以外、自由で気ままなふたり暮らし。
弟と姉のささやかな日常は、社会に疲れ切った私たちの心をほぐしてくれる。
眠る前のホットミルク代わりに、のぞき見するのも悪くないだろう。
おわりにのおわりに
もし少しでも気になったけどそれでも観るか迷う方は、主題歌であるOKAMOTO'Sの『Sprite』だけでも聴いてみてほしい。
この曲が抜群にドラマに合っているし、めちゃくちゃいい。
いつか私は自分の結婚式でこの曲を流すことを、ひとり勝手に夢見ている。
仕事帰り、最寄り駅から家までの道で聴きながら帰ったりするのなんかもオススメだ。
自分のどうでもいい日常が、その時だけは少しドラマティックに思えるかもしれない。